井上玩具煙火株式会社|造形花火(前編)

2024年6月20日

今を彩る伝統美。(前編)

インタビュー対象製品「造形花火」「花火AR」

海外製品が主流となっている手持ち花火業界で、伝統技術に新しい価値を付した「造形花火」。かわいらしい見た目だけではなく、フルーツの香りや金色の火花、燃焼が長時間続くことが特徴。自社販売サイトでは新しいサービス「花火AR」を開始(期間限定公開)し、購入前に燃焼の様子を見られるようになりました。これにより、場所・天候を問わず手持ち花火を楽しめるため、現代社会に寄り添ったサービスとなっています。


会社名

井上玩具煙火株式会社

設立

1926年 昭和元年

住所

静岡県島田市中河町9005

業務内容

玩具煙火の開発・製造・販売


企画開発室長 井上 慶彦(いのうえ よしひこ) 様

現社長 3代目 井上 吉勝(いのうえ よしまさ)様と共に、現代社会に寄り添った新しい花火の開発・製造を行う。今回の製品以外にも「義助(Yoshisuke)」、「結華(YUKKA)」などの新商品は、伝統技術を生かしながら生み出されており、メディアやセレクトショップでも多く取り上げられ、話題を呼んでいる。近年は、ポップアップストアや花火について学べるワークショップも開催している。


今回お話を伺うのは、井上玩具煙火株式会社 企画開発室長 井上 慶彦 様です。

井上玩具煙火様とは、オリジナル製品のひとつである「造形花火」「花火AR」の特許出願、商標登録をきっかけにお仕事をご一緒しました。製品の特長や経緯を伺う中で、伝統と高い技術力を生かす、だけではなく、新しいカタチを見出す力をお持ちの井上様。その開発力はどのように培われ、発揮されているのか、同製品に沿ってお聞きしていきます。

企業理念

竹井  井上玩具煙火さんが大切にしている想い、企業理念ありますか?

井上  そうですね。かっちりしたものはないんですけど、日本の伝統花火を守りながら、自社の歴史、先人の考えをよく学んで、そこから新しいプロジェクトを常に考えて挑んでいこう、と常に考えています。今、手持ち花火の市場の大半は海外産となってしまっているので、美しい日本の花火を守ることができればと。

竹井  なるほど。井上玩具煙火さんは、そろそろ100周年を迎えられますよね。

井上  そうですね。今年で創業98年目になるので。

竹井  長くやられている中で、受け継がれてきた日本製という花火を大事にしつつ、伝統技術を活用したワクワクするような新しい商品を絶えず世に出していこうというような試みが見られますね。

井上  皆さんに楽しんでもらえるようなものを作りたいという一心でやっているのは、この98年間、変わらないところですね。花火をやる時間というのは、1年に換算したらかなり少ない時間です。この一瞬の“彩り”を少しでも楽しんでもらえる、印象付けられるような花火を作りたいというのが、私たちの想いです。

後継者であると意識したタイミング

竹井  ご自身が後継者であると意識したタイミングはありましたか?

井上  そうですね。私はまず、外の知見を広めるため、弊社と取引がない銀行さんに就職をしました。昔から私が事業を継ぐことが、宿命というか、運命だというのは心のどこかにあって。5~10年ほど外で働いて、いつかは会社に跡取りとして入ろうっていう決心はあったんですけど、最初はあまり現実味を帯びていませんでした。しかし、東京都内で仕事をしていた際、花火を売っている現場を見る機会があって。うちの花火が並んでいたり、花火を選んでいるご家族を見たりすると、やっぱり熱くなるものがありました。現場を見ることで、なんとなく、私が働いたらこうしたいなっていう希望が出てきたりして。

竹井  なるほど。御社のウェブサイトもすごくお洒落で、見せ方がお上手ですよね。井上慶彦さんが入られてからの活動なんですよね。

井上  そうですね。私は、デザインを整えることで、製品自体の魅力をよりよく伝えたいと思っています。 どうしても、今の市販の手持ち花火は、パッケージがガチャガチャしすぎています。でもそれは市場の空気感がそうなっているからで、うちだけかっこいいパッケージにしてしまったら、それは売り場としては絵面が良くないので、だったら自社から発信することを少しずつ始めないといけないという課題は明確になってきていました。

商品と理念の関係性

竹井  御社の企業理念として、「日本の伝統花火を守りながら、新しいプロジェクトを常に考えて挑んでいく」が掲げられていましたが、今回の商品にはどのように反映されていますか?

井上  まず、花火というのは、“人々を魅了する” 。それは打ち上げ花火、手持ち花火でも同じなんですけど。

花火の起源については諸説ありますが、徳川家康が静岡市の駿府城で使い始めたという歴史があります。火縄銃で使われていた火薬を、人を魅了するように用途を変えた。それこそが花火がある意味だと思っていて。

火薬というと、日本では火縄銃で使われはじめ、危険、怖いというイメージが強いです。今でも、ニュースなどで目にする火薬は、戦争や事件などが多く、マイナスなイメージがつきまといます。火薬は火薬でも、“嫌な火薬”ではなく“良い火薬”としての使い方を意識し、火の怖さを知るためや、燃焼の綺麗さでその時間を楽しむことは、花火でしか与えられない魅力だと思っています。

なので、伝統を守りながら、少し遊び心を持たせるように工夫しています。

井上  特に、今の手持ち花火の市場を見てみると、いろんな種類がセットになった商品が主流になっているので、どの花火を燃やしたかっていうよりかは、花火をしたという行動に価値が生まれているような気がしています。とりあえず花火を燃やして、その時を過ごしたから夏っぽいことしたよね、で終わっている。

その流れで、「わざわざ手持ち花火買ってまでやらなくていいか」、となってきているように感じるので、それだったら、スイカや富士山の形をした特別な花火だと、印象がつきやすいんですよね。そういえばあの時スイカの花火をやったね、とか。

更にうちは、見た目だけではなく、火をつけてからも、きらびやかさだったり、繊細であったり、印象付けるような燃焼を提供することは、今までも自信を持ってやってきているので、いろんな方法で商品を展開したいと考えています。

竹井  先日家族とグランピングに行った際、スイカ花火で遊ばせていただきました。開封すると、立体的なスイカのデザインはもちろん、フルーティーな香りもして、着火前から夏を感じました。着火後、繊細な火花と迫力ある炎が印象的で、やはり通常の花火とは違う体験ができました。ありがとうございます。

アイデアの出し方

竹井  今回の造形花火やAR花火でのアイデアは、どのように出てきましたか?

井上  個人的には、業界内だけ見ていると新しいアイデアが出てこないと思っていて。常に他業種から何かをインプットするっていうのを心がけています。例えば都内に行った際に、インテリアを展開されているお店に入って、流行りのものを花火と一緒にできないか、とか。こういう匂いが好まれているなら、それを花火に展開できないかとか、まず当てはめていったりしています。流行っているお菓子とか、キャンディーみたいな形で造ったら、既存の花火とのギャップが作れたりする。

あとは、2色で展開すればスイカと富士山の形になるかも、など、新しい発想をあるもので展開できないかと考えたりしていて。そこから生まれた造形花火は、やはり他国の花火にもないものですし、オリジナルがより出せています。

竹井  なるほど。花火業界に絞るんじゃなくて、いろんな知見をまずはインプットして掛け算するってことが大事なんですね。

井上  はい。ただ、花火のデメリットは、燃やしてみないと分からないという点があります。お客さんから、「この形の花火はどういう風に燃えるの?」「写真だけでも見たい」と言われることも多々あったので、だったらAR技術を使ってみようと挑戦しました。自分達が常に持っているスマートフォンやタブレットというデバイスを使いながら、火をつけた様子が見られるメリットがあり、市場の反応を見ることもできています。

ニーズの把握

竹井  ヒット商品を生み出すためには、やっぱり顧客のニーズのあぶり出しが重要だと思いますが、その辺りはどうされていますか?

井上  今までは、自社でECサイトも持っていなかったので、基本的には問屋さんからのリクエストに応えて製造していました。ただ、今はお客さんとの距離を縮めて、直接声を聞いていくこともはじめています。ポップアップ限定で星形やハート型、丸型の花火を作ってみたり、お客様から直接お声掛けいただいた「印字した花火」とかも作ってみたり。

私たちができることを常に考えてはいますが、それよりお客さんが今花火に対してどう思っているのかも重要視しています。煙やニオイをどうするかなど、花火をやるときにどういうものが障壁になるのかを受けて、解消する商品を探り探り造っています