㍿ユニグラフ|デザイン思考で、昔ながらに新たな価値を。 (後編)

2024年4月18日

デザイン思考で、昔ながらに新たな価値を。(後編)

インタビュー対象製品「光のお供え」

神棚文化が失われている昨今、モダンさを取り入れた神棚・神具の開発をスタートされ、一貫したコンセプトと見せ方で、高い評価を得られています。同事業の人気製品「光のお供え」水・米・塩を封入した、光のオブジェ。太陽の神ともいわれるその天照大神から着想を得た、光り輝くお供え物です。特殊な手法により、水・米・塩を封入。お供え物をイメージし、神棚などに末永くおまつりすることができます。


会社名

株式会社ユニグラフ

設立

2010年 11月

住所

静岡県静岡市駿河区宮竹1丁目10-23

業務内容

1.オリジナル製品事業:モダンでおしゃれな神棚や神具「かみさまとおうち」の販売・通販。
2.ブランディング支援事業:広告・WEB・写真・動画などを総合した、セールスプロモーションやブランディングの支援。


代表取締役社長 兼 デザイナー 山本 剛直

広告・WEB・写真・動画などを総合した、セールスプロモーションやブランディングを行いながら、自社製品の開発、製造、販売を行う。オリジナル製品の「貼る神棚」では、Good Design賞を受賞。シンプルかつ美しい、統一されたデザインが多くのお客様の心をとらえている。


前編に引き続き、お話を伺うのは株式会社ユニグラフ 代表取締役社長 兼 デザイナーの 山本 剛直 様です。オリジナル製品のひとつである「光のお供え」の特許出願、商標登録やものづくり補助金申請を弊所で行ったことをきっかけに、高いブランド力を持つ同事業への想いや製品開発の経緯を伺いました。

後編では、製品開発に関する具体的な経営施策を伺っています。データに基づいた新製品の開発、ネーミングの重要さを学ぶことで、”顧客に刺さる”製品がどのように生まれるのかを探っていきます。また、補助金制度やGood Design賞の活用方法を知ることで、これから新規事業を立ち上げる皆様が、より安全な、無駄のない開発を進めるヒントを得られます。また、新しいことにチャレンジする際に襲われる不安や葛藤と、どう向き合っていくか。山本様の解決策と、実践的なアドバイスをいただきましたので、ぜひご一読ください。

想定見込み客と一致していましたか?

竹井  想定していた見込み客と、実際のお客様は一致していますか? 意外とこんなお客様も、みたいなことはありましたか?

山本  当初の見込み客は30代女性と設定していました。実際に購入いただいているのは8~9割女性なので、そこは合っていましたが実際は年齢層が少し高かったです。若い人に神棚をやってほしいって思いがありましたが、40代アッパーから、50、60代の女性までがすごく多いです。

竹井  軌道修正はあったんですか?

山本  光のお供え自体には修正はないです。でも、実際のお客様のボリュームゾーンである40代女性をターゲットとした新商品”木彫りの「願い小だるま」”を創りました。これは相当のヒット製品になっています。

竹井  その後、当初の見込み客(30代女性)が持つ価値観は掴めましたか? 

山本  今、推し神棚や推し棚が少し流行っていて、自分の好きなアイドルやアニメのキャラクターのアクリルスタンドを神棚に祭って神として崇めるみたいな。そういう需要は恐らく20~30代にあると思うんですけど、そこはうちの場合、ちょっと違くて。うちは神社と繋がっていたいので、神社で御札を買って神棚に祀るっていう文化の掘り起こしが、40代以降ならあるんですけど、20~30世代からヒットを狙っても限界がある。なので無理して、当初想定していた20~30代を狙ってはいないですね。

竹井  顧客情報はどうやって収集していますか?

山本  主には楽天市場などの総合ECサイトの購入履歴データを活用しています。特に、性別、年齢、男女比、アクセス人数などのデータです。これらのデータからペルソナが見えてきます。また、グーグルアナリティクスはより細かく様々なデータを見られるので活用しています。

コンセプトのフレーズ化はどのように行いましたか?

竹井  今回、製品名「光のお供え」がそのままコンセプトになっていて、非常にシンプルでかつ特徴も表れている、素晴らしいネーミングですよね。

山本  ありがとうございます。その通りで内容がネーミング一言で伝わるっていうのを僕らが大事にしています。一番初めにできた製品の「貼る神棚」っていうのは、もうこれ「貼る神棚なんだよ」って言ったらそれ以上説明が要らない。とにかく1秒で製品説明ができる商品名を決めています。「光のお供え」とか「願い小だるま」とか。プラス、WEB戦略をしていく時に、バナーコピーやキャッチコピーが出る時にお客様は0.5秒か1秒しか見ない、その間に伝わらなきゃいけないので製品名が短いことが命になってきます。

僕らが一番やらないネーミングっていうのは、かっこよくてひねりの効いたネーミング。例えば「光のお供え」が「ライトシェードライフ」とかだったら、売り上げは100分の1くらいになっていたのでは、、、それをやっちゃいけない。ネーミングは分かりやすく、一瞬で伝わるように。そうしようって決めてしまえば、一貫してその法則でいけるので、毎回すごく悩むこともないです。

竹井  でも、言葉のそぎ落としって結構難しいじゃないですか。

山本  そうなんですよ。僕も関係者で悩みながら決めています。中でも、1つしか言えなかったら何を言うか、を軸に決めています。2つ言うとぼやけてスピードも落ちるので。でも大体2つなんですよ(笑)。どっちをそぎ落とすかが結構難しいんです。でもそぎ落とした方が売れるのは確か。あと拡散しやすい。ウェブでもどこでも、?ってならせないのが大事。

コンセプトのデザイン化はどのように行いましたか?

竹井  どういった要素に意識をして、周辺のデザインの統一感を出されていますか?

山本  ネーミングに通じるのですが、最優先しているのは分かりやすさ。ぱっと見すごく分かりやすいと、綺麗で美しい。

竹井  御社のウェブサイトを見ると、かなりシンプルですよね。

山本  はい。かっこつけすぎないというか。写真がとにかく綺麗で美しかったら、そんなカッコつけなくてもいい。品位が高く見える。カメラマンさんは綺麗な写真を撮ってくれるんですけど、ひねったり変なアクを入れようとしちゃうこともあるので。ウェブサイトは写真が8割ですね。昔は、僕らもよく写真以外にデザイン的な何か要素、模様とかを入れて経営の師匠に怒られた。「こんなんいらない、きれいな写真と、一言で表すキャッチコピーが並んでいればいいんだよ」って言われていました。

竹井  デザインも山本さんご本人でやられているんですか。

山本  そうですね。ウェブ、印刷物、撮影も僕がやっています。プロダクトのデザインだけほんの一部おまかせでやったものがありますが、1割もないくらい。全部自分たちで手書きで大体の図面を書いて、試作・修正して完成させています。

竹井  デザイナーさん探しは大変というお声も結構聞きますがどうでしょうか。

山本  それは大変ですよね。自分と合う予算感と、デザイナーさんの得意分野と、コミュニケーションが取りやすいかとか。例えば、一つのウェブサイトページを作るにも、何回も打ち合わせして修正してってやっているうちに他社が先に出してしまうので。そのスピード感をもって阿吽の呼吸でできる外注さんっていうとなかなか難しい。発注して、毎回30万、40万って言われても何も進まないし、お金もかかる。なるべく良いデザイナーさんを見つけて、ヘビーなところだけやってもらって、あとのウェブのメンテナンス、更新などの調整は社内でやらないと絶対成り立たない時代ですね。

補助金は活用していますか?

竹井  補助金は積極的に活用していますか?

山本  実は、つい最近まで補助金っていうのはあまり使わない派でした。特に強く否定するとかではなくて、別にうちはいいかという感覚。理由の1つは、補助金がおりなければできない、やらないっていう事業は恐らくうまくいかない。僕がこの数年、厳しい経営の市場で叩き込まれたのは、自己資金でやって100万円の元手を1,000万にできるか、何千万にできるかっていう感覚がまず大事。なので、その感覚を養えてから補助金を使うのはいいと思います。補助金は麻薬、なんていう言葉も聞きますから。

僕らはほぼ自己資金でやっていて、銀行からの借り入れもあまりないです。最近、補助金にも目が行くようになりましたが、銀行から借りすぎたり、補助金を使いすぎると、その事業が果たして自力でうまくいっているかっていうのが分からなくなってしまう。

その感覚を大事にしつつ、本当に補助金が役に立つところだけは絶対使った方がいい。機材も高いものが多いし、この機材さえ入れば新しい製品が効率よくできて、よりたくさんの人に販売できたりするのであれば、よりお客様の役に立てる時もあるので、そこを見間違えないことが大事ですね。僕らもデザイン業だから「補助金取れたからホームページ作って」って依頼がたくさんありました。最近は断るんですけど、昔は僕も若いし断れないので、分かりましたって言って作りましたが、完成後は放置、って事が多かったですね(笑)。

知的財産権を取得した理由は?

竹井  知的財産権を取得しようと思った理由はありますか?

山本  ここは本当にシンプルに守りたい、パクリの抑制をしたいということ。特許や®マークが付いていればしっかりした製品であることがアピールでき、広告効果に近いものがあるので取得しました。一般の詳しくないお客様にも、すごい製品なんだって分かってもらえるとも考えました。

グッドデザイン賞の反響は?

竹井  実際に「貼る神棚」でグッドデザイン賞を受賞されて、いかがでしたか?

山本  グッドデザイン賞は相当な効果がありました。日本での認知が広いし、信用度があるので、どんなところにも満遍なく登場させています。

山本  あの赤いグッドデザインマーク(Gマーク)があることで信頼度が上がるので絶対取るべき。もしGマークがなければ、売り上げが7割くらいになってしまうんじゃないかな。あの効果はかなりすごい。Gマークを付けた「貼る神棚」は、分かりやすく売り上げも上がったんです。それまでポチポチだったのがワーッって売れ出して、それと共にブランド全体の売り上げも右肩上がりになっていきました。取ったその年の年末か、次の正月の売り上げから急に上がったので、Gマークはサイトのどこかに付いているだけでも相当な効果があります。

特に僕らみたいな地方の無名のところっていうのは、”ちゃんとした企業”に見えると言う部分もあり、無名のところほどお金をかけて苦労してでも、1個取った方がいいと思います。書類を作るのも、現地に行って展示をするのも自分達で行うので確かに大変です。後はマーク使用料に年間11万くらいかかる。中小企業はケチるかもしれませんが、絶対ケチっちゃダメ。でも年間10万以上もかかると言って、変な天秤にかけちゃうんですよね。まさに投資の仕方で、ウェブ広告費に関してもGマークに関しても、ここだけ数万円入れればもっと売り上げが上がるのにって思うことが、周りにも多いですね。

販売・プロモーションで何か特徴はありますか?

竹井  今回の製品における販売・プロモーションで特に力を入れている活動はありますか?

山本  「光のお供え」は写真とネーミングがとにかくバズりやすくできているので、うちの広告塔です。写真と、キャッチコピー、製品名のクリック率が非常に高いです。色んな製品を出しているんですけど「光のお供え」の効果が突出していて、そこから入ってきてくれた人が、他の神棚やダルマ、いろんなものを買ってくれる。光のお供えが、全部の売り上げの大多数を取ってきてくれています。あれをいかに見せるかで、お客さんが興味を持ってくれるので、そこから広めていく。入り口は、なにこれ?っていうものが魅力のうちで、売れなくてもいいからフロントに立たせる。

新しいことをスタートする際の不安や葛藤は?

竹井  オリジナル製品の開発者は道なき道を切り開いていく開拓者。新しいことに取り組むに際して、この道で本当に良いのだろうか?と悩まれたことはありましたか? そうであればどのようにその不安は解消しましたか?

山本  不安はもちろんあります。その不安を和らげる方法としては、早くやっちゃうこと。1つの商品の開発に半年~1年かけて、人件費も時間もお金も使っていたら、こけた時が痛いじゃないですか。なので、よく8割でリリースしろなんて言葉もあるんですけど、完璧じゃなくていいからとにかくスピード感を持って、今日思いついたら来月にはリリースするスピードでやれば、こけても時間もそこまで使っていないし、お金も使っていないので傷は浅い。

ちょっと変化球かもしれないですけど中小企業はスピードしか大手に勝てることがない。こけるものは絶対こけるので、全部当てるなんて絶対無理です。コストを掛けず、止めなければいつか売れるってこともあるので、そういう意味で失敗はないですよね。やっぱり時間をかければかけるほど、周りにも追い抜かれるし、こけた時のリスクも大きくなるので、不安になる。何年かやってみてスピード感は大事だなと痛感しています。分からないからやらない、後回しにする、のではなく、今はウェブで調べれば大体の情報は分かるし、ウェブでは分からないノウハウは、僕も師匠や同業さんに頼ることもあります。

製品製造業と価値製造業の違いとは?

竹井  製造業は2つに大別できます。どっちが良い悪いじゃないですが、1つは顧客の要求に可能な限り低コストで応える製品製造業、1つは新しい価値を自ら生み出す価値製造業。御社は後者かと思いますが、なぜそうありたいと想いますか?

山本  自分が価値を生み出す方ができる余地があるから、それだったら価値製造業でありたい。もちろんモノを安くたくさん造るってことも大切ですよね。僕は今年40歳ですけど、これからまだチャンスがあると思うし、自分で価値を創造して値決めできる立ち位置になんとかいるので、だったら是非そっちをやってみたい。

でもそうした時に、その低コストで作ってくれる業者さんが必要なので、持ちつ持たれつなんです。自分は価値をいっぱい作って、製造してくれる方々に造ってもらって還元するっていう構図が、すごく大事なのかな。よく木工屋さんに「御社はすごいね。他はもう安くしてくれ、としか言わないけど、御社はうちが1,000円になっちゃうよって言ったら、じゃなんとか5000円で売ります、って言ってくれるから」って言われます。それが持ちつ持たれつで、そうじゃないと誰も生き残れない。もちろんやってくれる業者さんもきつくなるし、僕らも作ってもらえなくなる。なので、自分は価値を創造して、作ってもらえるところは大事にして、みんなでやる。

竹井  中でも立場として弱くなりがちなのが、前者じゃないですか。それを、御社は原価かかるんだったら、これぐらいの価値を出さないとって工夫していらっしゃる。それで今後、みんなでハッピーになるっていうやり方ができているのが本当に素晴らしいです。

山本  そこを逆にやっていかないと、誰かが潰れ始めるっていう構図なのだと思います。

竹井  こういう素晴らしい活動をされていて、生きがいとか、楽しさはありますか?

山本  完全に向き不向きだと思いますが、自分は普通の会社勤めが向いていないタイプなので、自分で会社をやって、自分で考えたものが価値になって、いろんな人の仕事を創り出せる醍醐味がありますね。それによって、外注費も多くて大変なんですよ。大変なんですけど、でもそれでご飯を食べている人がいる。価値を生める人が一人でもいれば、あとは周りと一緒にやっていけばいいのかな。しっかりお客さんにも喜んでもらって、社会にも仕事を提供して、経済を回す、これが僕の仕事ですかね。

今回のポイント

1理念整理

2事業分析&アイデア出し

3顧客と提供価値の明確化

4コンセプトとストーリーの作成と磨き上げ

5事業計画の作成(補助金の申請)

6デザイン・試作品の制作と検証

7知的財産権の取得

8製造・販売&プロモーション