㍿ティアイエフ|前後両方向に搬送できる「正逆切換式振動コンベア」で業界常識を覆す

2025年8月6日
インタビュー対象製品正方向・逆方向搬送切り換え式 振動コンベア

容易に進行方向の切り替えができる「スイッチ・バイブレーション・コンベア」。独自のレバー機構により、振動式コンベヤーで難しかった搬送物の進行方向を逆方向に切り替えられる。レバーは外側のレバーが内側のレバーをスプリングで支える二重構造。


会社名

株式会社ティアイエフ

設立

平成7年5月

住所

静岡県榛原郡吉田町片岡1730-12

業務内容

省力化機械設計・製作,医薬品機械設計・製作,各種商品開発設計・製作,欠陥検査機開発,一般労働者派遣事業 等


今回お話を伺うのは、“1品1様”の専用機を手がける 株式会社ティアイエフ 代表取締役 松浦 高宏さん です。

従来の振動コンベアでは片方向にしか送れないという常識を打ち破り、ベルトコンベアでは難しかった清掃性の課題も解決するこの技術は、多方面から注目を集めています。また、同社はこの独自技術で特許を取得し、ライセンス提供によるロイヤリティ収入が得られるビジネスモデルを構築。自社が直接装置を製造・稼働しなくても収益を生み出す仕組みを作り上げ、新たな収益源の確立にも成功しました。

本稿では「正逆切換式振動コンベア」の開発背景やニッチ市場を狙った戦略、知的財産の活用による差別化などについてお話を伺っていますので、ぜひご一読ください。

開発の原点――業界課題に「前後搬送」という答えを見出す

竹井  本日はお時間をいただきありがとうございます。振動コンベアで前後両方向への搬送を可能にした「正逆切換式振動コンベア」は業界でも非常にユニークです。まず、この製品が生まれた経緯や着想のきっかけを教えてください。

松浦  弊社がこの製品を開発したきっかけは、まさに業界の常識への疑問からでした。従来、振動コンベアは基本的に「一方向にしか物を運べない」もので、逆方向に送るには装置を大掛かりに改造するか別のコンベアを用意する必要がありました。

また、一方でベルトコンベア方式で正逆両方向に搬送しようとすると、ベルト内部に粉や異物が溜まって清掃が大変という課題もあります。そこで、「振動で搬送方向を前後に切り替えられる装置があれば、多くの現場で役立つのではないか?」と発想したんです。実際に市場や既存技術を調べてみても、簡単な仕組みで前後両方向へ切り替え搬送できる例は見当たりませんでした。この独自アイデアには十分なニッチ市場があると確信し、開発に踏み切りました。

技術の核心――振動コンベアをシンプルに前後切替する仕組み

竹井  正逆切換式振動コンベアの仕組みについて、もう少し詳しく教えていただけますか。従来品と比べてどのようなメリットがあるのでしょうか。

松浦  このコンベアは複雑な駆動機構を使わずに、振動する方向を切り替えることで搬送物の進行方向を変えられるのが特徴です。振動コンベア自体の原理を活かしつつ、内部のスプリングやレバーの切換えで前進・後退を自由に切り替えています。ベルトコンベアとは異なり、ベルト部分がない分食品や粉体の製造ラインでも異物混入や清掃の問題を大幅に軽減できますし、装置の高さも抑えられるためスペースに制約がある現場でも導入しやすいんです。

要するに、「振動による両方向搬送」が可能になれば、工場のさまざまな工程をもっと柔軟かつ効率的にできる──その発想を実現したのが本製品です。実際、多くのお客様から「まさかこんな簡単な仕組みで逆方向に動かせるなんて」と驚きの声をいただいており、業界でも革新的なソリューションとして注目されています。

ニッチ市場攻略――競合調査と早期特許出願で独自ポジション確立

竹井  開発にあたって、競合他社の状況や特許などはどのように調査されましたか?独自技術とのことですが、やはり知的財産の面も気になります。

松浦  はい、まず競合他社や従来技術の調査は徹底しました。先ほど申し上げたように、同じようなことを実現した例がないか市場を調べましたが、当時は手軽に逆方向へ搬送できる技術は見当たりませんでした。これは大きなチャンスだと感じましたね。

そして特許の出願も製品開発の初期段階で行いました。本製品のコアとなるのは「振動で前後の搬送方向を切り替える」という基本原理そのものです。これが他にない独自の原理であることを早めに示すため、あえて細かな製品仕様の最適化より先に基本原理について特許出願したんです。特許庁の審査を通じて類似技術の有無も把握できますから、そこで唯一無二の技術であるとお墨付きを得た上で、その後でお客様個々の要望に応じた細かな改良を加える戦略をとりました。

顧客ニーズを掘り起こす――清掃性・高さ制約を一挙解決

竹井  顧客側のニーズについて伺います。この振動コンベアは具体的にどんな現場課題を解決できるのでしょうか?また、そのニーズにどう応えていったのか教えてください。

松浦  多くの製造現場で共通する課題として、生産ラインの最後にある傾斜シュート(流路)の出口を左右に切り替えて振り分けたいというニーズがあります。しかし、スペースの関係でシュート自体を動かすのが難しかったり、高さに余裕がなく通常のやり方では実現できなかったりします。

また、前述のとおりベルトコンベアで搬送方向を逆転させようとするとどうしても清掃やメンテナンスに手間がかかる。これらは業界全体で長年妥協してきた点でした。弊社はそうした現場の声を受託開発の過程で掴み、「正逆切り替えでこんな悩みを解決できる」と新しい価値を見出していきました。

そして常識を敢えて覆す形でこのコンベアを商品化した結果、「こんな簡単な方法で望みどおりの逆方向搬送ができるなんて」と、お客様に非常に驚かれました。実際に発売後は多数の問い合わせをいただき、この製品がまさに求められていた解決策だったと実感しています。

伝わるPR――特許技術を動画で可視化し優位性を瞬時に訴求

竹井  製品の独自性やメリットをお客様に伝える際には、どのような工夫をされていますか?

松浦  技術のユニークさを正しく伝えることも重要でした。そこでまず、この「正逆切換式振動コンベア」は当社が特許を取得した唯一無二の技術であることを前面に打ち出しました。従来の振動コンベアでは不可能だった前後両方向の切り替え搬送を、これほどシンプルに実現できるという点を強くアピールしています。

また、文章で説明するだけでなく、公式サイトに実機の反転動作を映した動画を掲載して視覚的に伝える工夫も行っています。百聞は一見にしかずで、動画をご覧いただければ一目でこの装置の優位性を理解してもらえますから、お問い合わせにつながる確率も高くなりました。

参入障壁を築く――海外特許・商標とライセンスモデル

竹井  非常に画期的な技術だけに、他社も真似したいと思うかもしれません。その点、競合他社の参入を防ぐためにはどのような対策を取っていますか?

松浦  おっしゃる通り、せっかく開拓したニッチ市場ですから簡単に真似されたくはありません。弊社では大きく二つの面から対策を講じています。まず一つは社内体制と提案力です。弊社は少人数の企業ですが、機械の設計・製造から制御・試運転まで一貫して内製化しており、仕様変更や短納期案件にも柔軟に対応できる体制があります。また、社員それぞれが多面的なスキルを持っている分、発想の柔軟さや機転の利いた設計提案力には自信があります。こうした強みと、例の「正逆切換式振動コンベア」という目玉技術の訴求力を掛け合わせることで、他社には真似しづらい独自の価値提供を実現しているんです。

もう一つは知的財産権の活用です。先ほど国内特許の話をしましたが、さらに海外にも目を向けました。将来的な展開を見据え、日本だけでなくアメリカやドイツでも特許を取得してあります。また、この技術に独自の名称を付けてブランディングすることも考え、「スイッチ・バイブレーション」という商標も登録しました。特許と商標、両面から権利で守ることで参入障壁を高めています。

加えて、ライセンス契約による技術提供でロイヤリティ収入を得るモデルもすでに構築済みです。他社が安易に模倣して製品化しようとしても、特許網に触れますし、我々からライセンスを受けないと同じことはできない。そうした意味で、ニッチながらも他社が参入しにくいビジネスモデルを完成させるに至りました。

小規模企業の強み――設計・製造・制御を内製化した柔軟対応

竹井  松浦社長ご自身の経歴や会社設立の経緯についてもお聞きしたいです。ティアイエフさんは元々どんな事業からスタートし、この独自製品の開発に至ったのでしょうか。

松浦  私はもともと自動車部品メーカーで生産技術の仕事をしていたのですが、勤務していた派遣会社が分社化するタイミングで独立を決意し、個人事業として設計の請負業を始めたのがこの会社の原点です。お客様から「設計だけでなく実物も作ってほしい」というご要望を受ける機会が増えてきたこともあって、徐々に事業領域を拡大しました。試作・組立から制御盤の製作、現地での試運転までワンストップで対応できる体制を整え、数年後には法人化して株式会社ティアイエフを設立しました。社員は多くありませんが、そのぶん一人ひとりが幅広い役割を担い、先ほど述べたように短納期の案件や急な仕様変更にも機動的に応えられるのが強みです。

こうした柔軟な対応力が評価され、オーダーメイド装置メーカーとして徐々に信用と実績を積み重ねてきました。また、受託設計・製造だけでなく自社オリジナル商品の開発にも注力することで、新規のお客様と接点を持つ機会も増やしています。今回ご紹介した「正逆切換式振動コンベア」も、そうした自社開発の取り組みから生まれた代表的な製品です。

成果と展望――80件超の問い合わせとライン拡張ビジネスへ

竹井  独自技術によるニッチ戦略を推し進めた結果、会社にはどのような効果や反響がありましたか?

松浦  おかげさまで非常に大きな反響がありました。例えば、この振動コンベアが新聞や業界専門誌に取り上げられた際には、全国から80件を超えるお問い合わせが一気に寄せられたんです。装置そのものの引き合いはもちろんですが、「こんな技術を開発できるのか」と当社の技術力そのものに興味を持っていただくケースも多く、結果として受託で別の機械開発やカスタマイズ案件の相談につながることも増えました。この装置を生産ラインの核に据えて、前後の工程を含めたライン全体のシステム提案を行うといった新たな営業展開も視野に入ってきており、事業の幅が着実に広がっています。

さらに、先ほど触れたライセンス契約によるモデルもすでに動き出しています。特許技術を他社に“貸し出す”形で契約を締結し、実際に弊社が直接稼働しなくても収入が入る仕組みを運用中です。限られた人的リソースでも独自技術でしっかり差別化を図り、新たな収益源を生み出せた好例ではないかと思います。

若手技術者へ――「自社だけの製品」を武器に未来を切り拓く

竹井  最後に、松浦社長ご自身の経験を踏まえて、他の中小企業の経営者や若い技術者の方々にメッセージがあればお願いします。

松浦  日々の売上確保に追われていると、「開発はまた今度」とつい後回しにしがちです。しかし、若いうちこそ自社オリジナル製品の開発に挑戦してみる価値は大きいと私は思います。現場で磨いてきた技術を一つの形(製品)にしてみることで、今まで縁のなかった思いがけないお客様や新しい市場に出会えるかもしれません。そして、会社の未来が一気に広がる可能性があります。

もちろん簡単ではありません。途中で苦労も多いでしょう。ですが、小さく試作しては改善するというサイクルを粘り強く回していけば、驚くほど面白い発見が次々に生まれるものです。特に若い方であれば、その行動力と体力を武器に、そのサイクルを人一倍速く回せるはずです。

そして何より、どんなに小さくても「自社だけの製品」を持てたという事実は、経営者自身に大きな自信をもたらしますし、周囲からの評価も確実に変わります。「やってみようかな」と迷ったら、まず一歩踏み出してみてください。その最初の一歩の行動が、きっと将来の大きな武器になりますよ。