原点からつづく、ニッチトップ企業の挑戦(後編)
- インタビュー対象製品:粒状牛ふん堆肥「スマートリッチ®」
-
今まで粒状化が難しかった牛ふん堆肥に着目し、開発に成功。2024年秋の生産を目指し、実用化に向けて更なる改良を続けている。現代農業で主流となっている化学肥料は、散布や保存に手間がかからず使い勝手は良いものの、その主原料は輸入に頼ることが多く、価格の高騰が懸念視されている。その点、国内肥料資源である牛ふんにより製造・販売が可能な「スマートリッチ®」は、化学肥料の使用量を抑えられる上、有機栽培など持続可能な農業に力を入れられる利点も大きい。また、農林水産省が先導している「みどりの食料システム戦略」では、化学肥料の削減や有機農業の拡大を目指しており、同製品が大きな役割を担うと、メディアでも取り上げられている。
- 会社名
-
富士見工業株式会社
- 設立
-
1946年1月14日
- 住所
-
静岡市駿河区富士見台1丁目21番22号
- 業務内容
-
有機質肥料及び法面緑化資材卸売業・貸コンテナ業・不動産活用事業
専務取締役 影山 英紀 様
当社は、昭和21年に創業し、資源リサイクル活動を事業の柱として「土から生まれたものを土に返す」を合言葉に、土壌改良資材、有機質肥料(家畜ふん堆肥)、法面緑化基盤材を全国に製造販売する肥料メーカーです。近年は「地力をデザインする」を旗印に、国内肥料資源の有効利用拡大に貢献すると共に、不動産活用により地域活性化にも取組でおります。未来を担う人のため、時代の流れに乗り、持続可能な社会構築を目指しています。
前編に引き続き、お話を伺うのは富士見工業株式会社 専務取締役 影山 英紀 様です。
最新のオリジナル製品のひとつである「スマートリッチ®」の商標登録を弊所で行ったことをきっかけに、同事業の背景や経営理念を伺いました。
後編では、開発の裏側や具体的な過程、思い描く未来の姿も含めてお聞きし、すでに業界トップを走る企業ながらも、更なる躍進を追い求める姿が印象的でした。これからオリジナル商品の開発を進めたいとお考えの方は、このタイミングでご一読いただくことで、売れ続ける「理由」となるヒントを得られるのではないでしょうか。
ニーズのあぶり出し
竹井 ヒット商品を生み出すためには、顧客のニーズのあぶり出しが重要になってくると思いますが、貴社ではどのようにされていますか?
影山 これはもう当社の販売データを見るとはっきりしているのですが、粒状化・ペレット化されている製品の販売量が増えております。農家さんも高齢化してきていて、機械撒きができない資材だと扱いが難しくなってきております。重くて、専用の機械でしか散布できないことが、牛ふん堆肥の売れづらくなってきている理由であると思います。自分たちが製品を販売しておりますので、農家さんより求められているものは分かります。
竹井 どうやってお客様の声を収集されているんですか?
影山 当社の営業担当が、直接JA担当者や農家さんから話を聴きます。その中で「やっぱり牛ふん堆肥は撒きづらいよね」という話を聴いています。
研究所との繋がり
竹井 同製品は、畜産技術研究所さんと共同開発しているそうですが、この研究所とはどういった経緯でやることになったんですか?元々繋がりがあったんですか?
影山 もともと繋がりは特になくて。当社で粒状化する機械を研究していた時、いきなり畜産農家さんと組むより、開発する以上、専門の研究機関である静岡県畜産技術研究所さんと一緒に畜産業界のためにも開発していけたらとご相談に伺ったところがスタートです。
静岡県畜産技術研究所さんは牛を飼育していて、畜産・酪農に関わる全てのことを研究しています。畜産関係の機械のことも詳しく、毎年何かテーマ持って民間企業といろいろな取り組みをされています。その中で当社の持ち込んだ企画に興味を持っていただけたことで一緒にやってみましょうとなり、共同開発3年間の契約を結んで、牛ふん堆肥の粒状化試験に取り組んできました。
竹井 今、開発状況ってどんな感じですか?
影山 この秋から販売をしたいと思っているので、そこに間に合うように今準備を進めています。 今まで畜産技術研究所さんでは、主に乳牛の牛ふん堆肥を使って粒状化してきました。ただ、この牛ふん堆肥の特徴として、牛舎におが粉が敷かれているので、そういった木質繊維が混ざっています。この木質繊維が邪魔をして、粒状化した際どうしてもゴツゴツ感が出てしまいます。これでも機械撒きができるので問題ないのですが、化学肥料の形状に近づけるには、もうちょっと綺麗に丸くするため木質繊維の少ない牛ふん堆肥原料の選定を行いました。
その結果、おが粉の混ざりが少ない牛ふん堆肥を生産している肥育牛の牧場主さんと出会い、その牛ふん堆肥を使用することで綺麗な粒状の牛ふん堆肥の生産が可能になりました。現在、その牧場主さんと一緒に「スマートリッチ®」の量産に向けて取り組みを進めております。
チームメンバー
竹井 御社の中で常設の開発チームっていうのがあるんですか?
影山 社内に企画開発部がありまして。中小企業なので、部長1人しかいないのですが、そこに私や他の部の社員が応援で関わり、開発チームを作って進めてきました。
竹井 やっぱり開発ってすごく大変だと思うんですね。チームとして楽しく開発するために意識されていることってあったりしますか?
影山 そうですね。やろうとすることがこれからの農業界にとってすごく良いものだ、ということを、まずはしっかり自分たちの中で認識しないと、開発って進まないと思うのです。
開発担当者も、これを作ればみんなが求めるものになる、と強く信念も持って進めてきました。最初に粒が出来てからは、これをもっと綺麗な粒状、さらに球状にするには、どうしたらできるかを考え続けてきて、常にもうちょっと高めようっていう意識を持ちながらやっています。 開発する中の一つの拠り所にして、それに向かって進めることによって、ある意味楽しいというか、できるものを想像して、仮説を立て、それに確実に近づけていくところの楽しみがありましたね。
竹井 それをみんなで共有しているからこそ、チームとして開発ができますよね。新しいことにチャレンジし続ける姿勢が社内に根付いてらっしゃいますね。
開発に取り組む意義
竹井 開発に取り組み続けていらっしゃるのには、どういう理由があるんでしょうか?
影山 これは企業理念に結びつくのですけど、当社はやはり時代の一歩先を歩みたいです。地力をデザインする富士見工業として、既存の商品だけでやっていくことも可能ではあるのですが、ただ、そこを追従してくる企業さんも絶対この後出てきますし、すでに新しく出てきた企業さん、特にスタートアップ企業やベンチャー企業さんがニッチなところで入り込んできています。そこが脅威です。 どんどん追いつかれて、追い越されてしまわない為に、だから当社は、常に時代の一歩先をいく意識を強く持ち、商品開発に取り組み続けています。
20年後の未来
竹井 20年後、達成していたい未来はありますか?
影山 私たちは農業資材事業の他に、緑化資材事業や不動産活用事業も行っており、環境に配慮した持続可能な社会実現のため、地球にやさしい資材を提供し、土地を活用して地域の活性化に貢献する商売をずっとやってきています。
そこで、ここで満足して終わってしまっていいのかなっていうのがありまして。今考えているのは、当社の次期後継者ともよく話をしておりますが、当社のネットワークを活かした飲食店・レストラン経営を夢見ています。 野菜を作る農家さんも全国にいる。特徴ある牛肉や牛乳を生産している畜産・酪農農家さんも知っている。採卵農家さんの養鶏場ともつながりがある。養豚業の方もいる。あらゆる良い食材を全国から調達できるので、当社取引先の食材を使って提供できる店もできるんじゃないかと。
その原点となる農業資材を当社が販売し、ぐるっと回って食に戻ってくる、そこで安心安全なサイクルが完結するので、そういった展開から何か新しい当社の発信できるものがあるんじゃないか、とよく社内で話しています。
竹井 素敵ですね。
影山 あともう一つは、最近よく聞く「地域の活性化」をすごく意識しています。
当社は本社が静岡にあるので、静岡発で何かやりたいと思い、今いろいろな取り組みを始めています。静岡大学の農学部や静岡県立大学とも、今接点を持って地域の活性化につなげる取り組みをやり始めています。
あと、高校生とも接点を持ち始めました。若い世代が思うこと、考えることを知っていないと、時代の流れに乗っていけないと考えているので、次期後継者を中心に進めています。 私が考えているのは、今回の製品「スマートリッチ®」を静岡県内の生産者さんや民間企業さんに供給して、そこから新たに生まれるものを発信していきたいです。それが必ず静岡発の、地域活性化につながると思っています。