富士見工業㍿|原点からつづく、ニッチトップ企業の挑戦(前編)

2024年8月1日

原点からつづく、ニッチトップ企業の挑戦(前編)

インタビュー対象製品:粒状牛ふん堆肥スマートリッチ®

今まで粒状化が難しかった牛ふんの堆肥化に着目し、開発に成功。2024年秋の生産を目指し、実用化に向けて更なる改良を続けている。現代農業で主流となっている化学肥料は、散布や保存に手間がかからず使い勝手は良いものの、輸入に頼ることが多く、価格の高騰が懸念視されている。その点、国内肥料資源である牛ふんにより製造・販売が可能な「スマートリッチ®」は、化学肥料の使用量を抑えられる上、有機栽培など持続可能な農業に力を入れられる利点も大きい。また、農林水産省が先導している「みどりの食料システム戦略」では、化学肥料の削減や有機農業の拡大を目指しており、同製品が大きな役割を担うと、メディアでも取り上げられている。


会社名

富士見工業株式会社

設立

1946年1月14日

住所

静岡県静岡市駿河区富士見台1丁目21番22号

業務内容

有機質肥料及び法面緑化資材卸売業・貸コンテナ業・不動産活用事業


専務取締役 影山 英紀 様

当社は、昭和21年に創業し、資源リサイクル活動を事業の柱として「土から生まれたものを土に返す」を合言葉に、土壌改良資材、有機質肥料(家畜ふん堆肥)、法面緑化基盤材を全国に製造販売する肥料メーカーです。近年は「地力をデザインする」を旗印に、国内肥料資源の有効利用拡大に貢献すると共に、不動産活用により地域活性化にも取組でおります。未来を担う人のため、時代の流れに乗り、持続可能な社会構築を目指しています。


今回お話を伺うのは、富士見工業株式会社 専務取締役 影山 英紀です。

最新のオリジナル製品のひとつである「スマートリッチ®」の商標登録を弊所で行ったことをきっかけに、同事業の背景や経営理念を伺いました。

戦後の創業当初から「土から生まれるものを土に返す」を軸に事業を進められてきた富士見工業様。そのために何ができるのか、こうしたらもっとよくなるのではないか、という純粋な想いと行動力は、持続可能な社会を先導する企業となり、今も尚、成長を追い求めています。

長く続く企業は数多くある中、経営理念自体が社会的意義と結びつき、ニッチな事業を自ら生み出す「ニッチトップ企業」となったポイントを伺いましたので、ぜひご一読ください。

経営理念

竹井  スマートリッチ®という商品について、どのような理念に基づいて開発されているのでしょうか。

影山  当社は、先代社長の創業精神「ありがたい、もったいない、世の中の役に立つ」が、理念の原点です。

創業当初はグランドパルプという製紙原料を製紙会社に納める仕事からスタートしました。当時、静岡市内にはたくさんの製材会社があったので、当社は木の廃材を集めて、皮を剥いで、芯の部分は木質チップにして、紙の原料として製紙会社に納めていました。が、その皮の部分はどうしても残ってしまいます。それなら何かに利用できないかな、これもったいないよねっていうところから始まって、肥料事業へ拡大していきました。今はもう製紙の仕事はやっておらず、その「あまりもの」をどうにか再利用したことから始まった肥料事業がメイン事業となっています。

今、世の中でSDGsの話が普通に出るようになってきて、子ども達もそれを学んでいます。これから先もその考え方が一般化されていく中で、当社は昭和21年創業から持続可能な社会を目指し、時代を先取りしてきました。そして今、時代が当社に追いついてきた、と感じています。この様な時代の流れの中でも、当社はこれまで通り、「常に時代の一歩先へ」という想いを大事にしており、「スマートリッチ®」もこの理念に基づきブレずに開発に取り組んできました。

開発の経緯

竹井  今回の製品「スマートリッチ®」を開発するに至った経緯を教えてください。

影山  「スマートリッチ®」は、粒状の牛ふん堆肥です。原料としては家畜排せつ物の中で大量に発生する牛ふんなのですが、含水率が高く、重くて撒き辛く、広域流通も難しいため持て余されている中で、それをどうにか粒状化することにより、撒きやすさが向上し、もっともっと「土づくり」に役立ててほしいという想いで開発しています。従来から、化学肥料は2~4㎜の粒状で機械撒きができるので、農家さんも扱いやすいです。有機質肥料も化学肥料と同じ形状にすることで扱いやすくなり、未利用資源の活用につながると考えています。これは、牛ふん堆肥の固定概念を変える当社の挑戦でもあります。

当社は一貫して有機質肥料にこだわって事業をしています。肥料というのは、化学合成物質で作られた化学肥料(普通肥料)と、自然物由来原料で作られる有機質肥料(特殊肥料)の2つに分かれますが、ほとんどの肥料メーカーさんが取り扱う肥料が化学肥料です。有機質肥料だけを取り扱い北は北海道から南は九州・沖縄までタイムリーに納品できる肥料メーカーは当社だけだと思います。

当社が当初からメインで扱っているのは、木の皮を発酵・腐熟させて作るバーク堆肥ですが、当社の工場内で製造する過程で、どうしても木の皮だけだと発酵が進まないので、微生物の餌となる発酵助材を加えるのですが、そこで家畜のふん尿を原料とする家畜ふん堆肥を利用しました。 それがきっかけとなり畜産業界の方とのお付き合いができました。当時から各種畜産業者の方からは「ふんが溜まって困っている」という話を聞いていました。そういった畜産業界の困りごとを何とか解決するにはどうしたらよいか、もったいない精神でこの課題に取り組み、家畜ふん堆肥という形で畜産農家から耕種農家へ供給する役割を担うようになりました。家畜ふん堆肥にも様々な種類があります。鶏や豚のふんは、堆肥化技術により粒状やペレット状に加工しやすく、特に発酵鶏ふんは肥料成分が高く、早くから粒状化されたことで、撒きやすさが格段にあがり、保管・輸送性も向上したことで広域流通が可能となり、拡販に繋がりました。

また、この鶏ふんと豚ぷんは、有機質肥料の中でも肥料成分が高い肥料になります。逆にバーク堆肥と牛ふん堆肥は、肥料成分が低く、肥料効果は劣りますが、微生物の餌になり、土をふかふかにする効果があります。つまり、土壌を改良する効果が高く、土づくり資材として使われます。

ただ、どうしても、牛ふん堆肥はその性質から繊維質が多いため、粒状化が難しいです。牛は牧草を食べていますし、牛舎には「おが粉」という木の粉を敷き詰めているので、堆肥化してもなかなか分解されない繊維質が残ってしまいます。実際に農家さんが牛ふん堆肥を撒くには、化学肥料の機械では撒くことができないため、また別の機械を買わなければいけないこともあり、その手間と扱いにくさから牛ふん堆肥の利用が伸びない原因の1つになっていると考えており、そう言った課題に対処すべく当社は粒状化開発に着手しました。

市場の状況

竹井  まさに「ありがたい、もったいない、世の中のお役に立つ」という理念どおりの活動ですよね。このような活動は世の中的にも求められてきているのではないでしょうか。

影山  そうですね。国の方針で「みどりの食料システム戦略」が打ち出されまして、2050年までに、化学肥料の使用量を30%低減する目標と、耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大するという目標があります。

みどりの食料システム戦略トップページ:農林水産省

また、ロシアのウクライナ侵攻もあって、2年ぐらい前から化学肥料の値段が2倍以上に跳ね上がりました。これでは農家さんも大変なので、だったら国内の貴重な肥料資源である家畜ふんの堆肥や家畜ふん肥料をもっと有効に利用し始めているっていうのが現状です。

鶏ふん堆肥は既にうまく世の中に流通されているのと、近年は海外に輸出もされているので、国内外で利用されています。しかし、家畜の糞の中でその発生量の約60%を占める牛ふんは、水分量が高く重量もあり、粒状化、ペレット化もされていないため扱いにくい、どちらかというと大量に余っている牛ふん堆肥をどのように農家さんに利用していただくか、というところがみどりの食糧システム戦略の推進に貢献できるポイントであると当社は考えています。

近年、肥料法が変わって、今までは化学肥料に有機質肥料や堆肥を混ぜることができなかったのですが、それが今は混ぜてもいいことになりました。だから肥料メーカーさんも、化学肥料に有機質肥料の発酵鶏ふんだとか牛ふん堆肥を混合したものを今販売し始めてきています。例えば、国の方針に合わせて、化学肥料成分を7割にして、あと残りの3割を発酵鶏ふんや牛ふん堆肥を混ぜて、ペレット状や粒状に成形するということで、化学肥料30%低減に取り組んでいます。これを「混合堆肥複合肥料」といいます。

ただ、それだと本来の有機質の効果は出なくて。土は、微生物により土壌環境を整えることで生産性を高めていくので、その微生物の餌となる有機質をバーク堆肥や牛ふん堆肥によってしっかり投入して、それにプラス発酵鶏ふんなどで肥料成分を補うように継続して使っていかないと、良い土って出来ないんですよ。

今、農業界はスマート農業による機械化、自動化というのが進んでいて、肥料や堆肥を機械撒きにすることによって農家さんの作業負担の軽減につなげる取り組みが進んでいます。当社は、余っている牛ふん堆肥でしっかり土づくりをしていただきたいという想いで、扱いやすい粒状化することにより牛ふん堆肥をスマート化し、さらに乾燥させることで肥料成分を濃縮させるリッチ化に成功しました。また、この粒状牛ふん堆肥を使っていただく農家さんにとっても収量アップにつながることで農家さんのリッチ化につながるという願いも込めて開発してきたのが「スマートリッチ®」です。

竹井        昔から有機肥料でやられてきた経緯があるからこそ、今、有機肥料にどんどんシフトしていこうよっていう国の方針もあって、めちゃくちゃ御社にとっては追い風な状況ですよね。

影山        そうですね。今は追い風で、農水省の方からも色々ご相談いただけることが多くなってきています。化学肥料メーカーさんの方からも、弊社と組みたい、とお声かけていただけることが増えてきて、何か新しい動きが、時代の流れの中で出始めてきたかなというところを感じています。

竹井        有機を導入された当時から、わりとニッチな業界だったんですか。

影山        そうですね。もともと堆肥っていうのは、昔は農家さんが近所の畜産農家さんから牛ふんをもらってきて、自分の畑の片隅でお米を作った後の稲わらやもみ殻と牛ふんを混ぜて、自分で堆肥を作って自分の畑に入れていたんです。 だから堆肥を買うっていう考え方もなかったんですよね。なのでバーク堆肥を製造した当初は、「堆肥を買ってまで使わないよ」とよく言われたと先代社長が言っていました。だけど、農家さん側からすれば、やっぱり手間を考えると楽なわけですよね。そこを省けば他の作業もできるし、買えば良い堆肥が入ってくる。土も良くなっていく。だんだん農家さんが使ってくれるようになっていったっていうのが、今に至ります。

竹井        まさに有機肥料の市場を御社が創ったといっても過言ではないですね。

有機肥料というニッチ市場

竹井  肥料全体の取扱量は8、9割が化学肥料で、1、2割が有機肥料とおっしゃっていましたが、有機肥料っていいところばかりな気がするんですけど、なんで1、2割ぐらいしか取り扱われないのかなと思うんですが。

影山  化学肥料の方が栄養成分を高濃度で含有していますので、どうしてもそちらがメイン肥料になってきます。有機農業を行う場合には、当然有機肥料が用いられますがまだまだ有機栽培を行う農家さんは多くないです。多くの農家さんは生産性、収量を求めていますのでどうしても化学肥料が中心になります。

有機肥料は土づくりや野菜の苗を植える前、種をまく前の土を作る資材っていうイメージです。当社は、「農業とは、地力をつくること」だと考えています。作物が根をしっかり張ることによって、十分に栄養分を吸って育つので、つまり、土づくりをしっかりしないと収量も上がりません。 また、有機質肥料を取り扱っていると、クレームとかも多いです。生きている微生物が入っていますので、日々どんどん変化していくんですよね。特に、湿気が多いところで管理してしまうとカビも発生することがあります。そうなると取り扱いが大変で。当社も結構苦労しながら事業を行っています。こういった大変さもある事情から有機肥料を扱う企業は多くないのかもしれません。

竹井        有機野菜が流行ってはきていると感じますが、有機栽培というからには当然、化学肥料とかを使っちゃうと定義から外れちゃうんですか?

影山        そうですね。 有機栽培では、化学合成物質の肥料や農薬は使っちゃいけないことになっていて、しかも有機栽培をはじめるには2~3年かかるんです。今まで化学肥料を入れていた畑で、じゃあ次から有機だけで栽培しますって言って有機質だけを入れたとしても、化学肥料成分が残っているので。有機質資材を100%で使って、2~3年間それを継続しないと認められないのです。

化学肥料は化学合成物質なので、畑に撒いて、上から水をかけると、それが溶け出して、作物に吸われる状態になります。速効性ですので大体1作でその投入した肥料は使い切ってしまうイメージです。有機肥料っていうのは微生物が有機物を分解することで作物に吸われる状態になります。このことを無機化といいます。この有機物の分解も早く分解されるもの、なかなか分解されず時間がかかるものがあり、次の作にも有機物が残っていきます。

例えば発酵鶏ふんだと、1作に投入したとしても、その中の約3割しか無機化されないので、作物に吸収される成分は投入した成分量の約3割しか吸われず、6割は次の作に残ります。この様に土の中に有機物が蓄えられることで「地力」が高まります。 次の作でまた新たな発酵鶏ふんを入れるとまた約3割成分が無機化されます。で、この前作に入れた鶏ふんからも残った6割の内約3割無機化されて成分が出てきます。このようにして、投入した発酵鶏ふんよりおおよそ9割以上の栄養成分が出てくるのには、約3年かかかることになります。だから、有機栽培をやるには、3年後ぐらいから化学肥料と同じぐらいの収量が取れるようになります。

この様に当社は、有機質肥料で土づくりを行い、土の生産力となる「地力」を養っていきます。つまり「地力をデザインする®」富士見工業です。

竹井        有機栽培を行う方は、必ず御社の有機肥料を利用するのですね。

影山        そうですね。 最近では、静岡県の自治体でいうと、藤枝市は「オーガニックビレッジ宣言」という有機農業の生産から消費まで一貫した取り組みを行っています。その中で、子どもの学校給食に使う野菜は地元で作られた有機野菜を使いましょう、といった取組方針があります。これは有機農業産地づくり推進事業として国の方針に沿った取り組みになると思いますが、今後はそのような取り組みにも「スマートリッチ®」はじめ当社の資材がお役に立てればと販路をしっかり作っていきます。