目の前の声に応えて生まれたニッチ製品(前編)
- インタビュー対象製品「高周波木材水分計」
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タッチ式ハンディー水分計。建築や家具に使われる木材の水分量を計測するための機器。もともと木材の乾燥度は職人の勘で行われていたが、数値化に成功した唯一無二の製品。高精度で使いやすく、測定対象物に軽く押しあてるだけで簡単に測定。電極に高さがあるため、荒れている面や反りのある木材でも測定が可能。
- 会社名
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マイクロメジャー株式会社
- 設立
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1998年(平成10年)7月
- 住所
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静岡県島田市金谷東2-3482-413
- 業務内容
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水分含有物、木材、合板、繊維、化成品、食品などのマイクロ波、高周波水分計の製造、販売
FFT解析の強度区分用グレーディングマシンの製造、販売
代表 杉山 晃広 様
2人のエンジニアが開発する木材専用の水分計は、業界内で高いシェア率を誇る。正確さとハンディさが特徴の「HS-300」は、今までの製品から得られたお客様の声を反映し、改良を加えた最新機種であり、痒い所に手が届くニッチな製品として多く専門業者の方々に喜ばれている。
今回お話を伺うのは、マイクロメジャー株式会社代表の 杉山 晃広 様です。
杉山様とは、オリジナル製品の「高周波木材水分計」に関する特許出願をきっかけに、お仕事をご一緒しました。
あらゆる工業製品がある中で、唯一無二の木材専用の水分計を生み出した杉山様。その成功をおさめる事業はどのように生まれたのか。お聞きする中で見えてきたのはお客様視点を軸とし、たゆまぬ努力と技術力を集約した事業であること。お客様の困りごとを解消するためにはどうしたらよいか。その一途な想いと確かな技術力が形となり、同製品が生まれました。同事業に沿って、成功のポイントをお聞きしていきます。
経歴・経緯
竹井 杉山さんのこれまでのご経歴は?
杉山 29歳の時に会社を設立しました。今55歳なので、26年続いています。前の会社で装置開発に携わり、修行をして技術を身につけました。もともと技術系が好きだったというのもあります。
竹井 会社設立の経緯をお伺いしてもよろしいでしょうか?木材の水分計に特化した、かなりニッチな業種に絞られているイメージがありますが。
杉山 それは非常に単純でしてね。身の回りにあるものと、自分の得意分野を掛け合わせたんです。静岡県って、産業・農業でいうと大体、お茶と木材。ここの島田市内も同様です。私の自宅の周りにも木材の工場があるもんですから、非常に親しみがあります。そして自分は基盤が得意なんです。それを掛け合わせると、一番簡単なのは水分計でした。
竹井 なるほど。その当時の環境からみて、ニーズがありそうだなっていうところと、ご自身の得意分野をうまくマッチさせたんですね。
杉山 そうですね。ただ、始めた当初からなんですけど、1本道筋を作らないと商売ってなかなか難しいものですから。まずは身近なところで、ちゃんと使っていただけるような製品をつくって、目の前の工場に入れてもらうということが、すごく大きいんですよ。その工場1箇所で、しっかりと役に立てば、あとは横展開していくだけですからね。日本中に木材工場ってあるので。あとはどうやって広げていくか。それが弊社の一番のコアになりました。
竹井 まずは目の前の方の役に立つっていうことですね。
杉山 そうですね。それが一番ですよね。喜んで使ってもらえればね。
竹井 ちなみに、木材の水分を測るというのはどういう意味で役立つんでしょうか?
杉山 それが非常に重要なんですね。木材っていうのは乾燥する途中にどんどん縮んで短くなる性質があるんです。木材は当然植物なので、その木から吸った栄養を葉っぱに送るためにあるわけで、茎なんですよね。そこの茎の部分を利用しているので、切ったばかりだと生の状態で水が非常に多いんですよ。
水分が多いまま家を建ててしまうと、壁紙が腐ってしまいます。また、木材が収縮して縮んでいくもんですから、壁紙が割れたり、欠けてしまったりします。あとは接合部に隙間ができて、地震に弱い家になったりするんですよ。
木材工場では当然乾燥させるんですけど、乾燥機に入れて、重油で焚くんです。生産者としては重油のお金をなるべく控えたい。お金はかけたくないけども、不良品は出したくないっていう、その瀬戸際。このようなところで弊社の水分計が役に立っています。乾いたかどうかをチェックするのは、見た目じゃ全く分からないので。
私が会社を始めた頃は、乾燥材ってあんまりなかったんですよ。人間の勘だけでやっていたような形だったんですね。昔は大工さんがしっかりしていたものですから、どれくらい縮むかの見当がついていた。ただ、今そんなこと言っていられないですよね。現場にいるのは外国人の方が多いので。それを水分計で機械化・数値化していこうってことで、徐々に浸透していった形になります。
竹井 企業当初も、木材に特化した水分計はなかったんでしょうか?
杉山 ありましたけどね。非常に不便だったんです。使いにくくて値段も高くて、あまりいいものでなく、一般的ではありませんでした。
竹井 お客さんに伺いながら、最適なものを造っていくというのは、創業当初の立ち上げから続けていらっしゃるんですね。ニーズのあるところから、自分の強みを生かして起業する。素晴らしいですね。
今回の製品の概要
竹井 今回の製品は、誰がどんな時に使う製品でしょうか?従来の水分計と比べてどんな課題を解決できる製品になりましたか?
杉山 これが実物なんですよね。特許出していただいた製品です。 背面に2つのセンサーと横に1つのセンサーがあります。
横のセンサーを触ると非常に値が安定してくると、いうことで、お客さんに喜ばれています。使い方は簡単で、板材にタッチして測定する。ピピッと鳴って、数字が出ます。
従来のものは、大きくて使いづらく、裏側の測定する面が板だったので、測る際に浮いてしまっていました。木材って実は平ではなくて、丸かったり反ったりしているものですから、改良をして、下駄を入れたことで安定しました。
竹井 初代のものはもっと大きくて、それと比べるととてもコンパクトになり、利便性はかなり向上しましたよね。
チーム編成
竹井 製品開発の各工程ってどのようなチームで今取り組まれているんですか?
杉山 従業員は5人ほどです。うちは水分計だけでやっているので、開発面は機械の担当と電気の担当で二人です。最初から最後まで、全部二人でやります。その方が早いです。
竹井 その方とはどういう繋がりで一緒に働かれるようになったんですか?
杉山 元々近所の方なんですよ。別に社員募集をしていたわけではないんですけど、アルバイトで来てもらっていたんですよ。で、最初は週1で来てて、その次週3になって。もう10年以上になりますね。
竹井 人間関係が良くないと、一緒にこういった仕事ってなかなか難しいと思うんですけど、環境としてはスムーズに楽しく開発できてるんですか?
杉山 そうですね。おっしゃる通り、やはりやっている事が難しいので、話も難しいことばっかり言っちゃうんですよね。ですのでなるべく難しくならないように、相手がちょっと悩んでるようだったら他に仕事入れないとか、なるべく一つの事をやらせて、あれもこれもやれってことは言わないように、仕事量を見ながら調整しています。無理そうだったらちょっと納期を延ばすとかね。必要以上にストレスをかけてしまうと楽しくないもんですから。
竹井 やっぱりこういった技術開発って、やっぱり楽しくやらないとなかなか続かないですよね。
杉山 やろうと思えばいくらでもできてしまうもんですから、楽しく、健康的に体を壊さない程度に、その時一番いいものだけを選んで開発するようにしています。体壊してまでやる必要もないんでね。
ひとつだけ、どうしても言うとしたら、私は絶対怒らないです。失敗しても。この次は気をつけようね、ぐらいでおさめていて。怒ったら相手も嫌な気持ちしますしね。一生懸命やってくれているので。
竹井 なるほど。ほんと最近の言葉で「心理的安全性」ですね。自分が思ったことは言えないとかっていう空気があると、もう本当にこう下向きな気持ちになってしまったりみたいなことがあると思うんですけども、それは本当に無さそうな感じでやられているのが伺えますね。
杉山 そうですね。
アイデアの出し方
竹井 いろいろな新商品が頻繁に開発されていますけれども、商品新商品のアイデアっていうのはどんな感じで出しているんですか?
杉山 一番はやっぱりお客さんの困った声を聞くっていうところですよね。私も20何年やってきて、ずっと困った声を聞いているんですよ。それに対して色々やってはいるんですけど、いつもアイデアが浮かばなくて。何かの拍子に出てくることが多いもんですから。
その何百、何千という聞いた声を常に頭に入れていて、何かの拍子にうまくいくことで実際の製品になってくるんだと思います。要はそのたゆまぬ努力と開発する根気の2つが合わさって、はじめて出てくる。
竹井 お客さんの声ってどのように収集されていますか?
杉山 弊社の場合特殊だと思うんですけどね。日本でうちしかやってない製品が7割方なので、寺子屋みたいに困った人ばかり来るんですよね。そこから最大公約数になるもの、一番多いものを作ってくと、それがニーズになるってことですね。
竹井 お客様の声をわざわざこう頑張って聞くっていうことをしなくても、製品自体がかなりニッチなので、必然とお客さんからの要望が集まってくるんですね。
杉山 困った声をいただいた時点では、製品がないので断ることが多く申し訳ないのですが、つくり続けているとまた次のお客さんが見に来てくれるので。
竹井 やはり中小企業の一番取るべき戦略はニッチ戦略だという風によく言われますけれども、まさにそれを体現されている素晴らしいビジネスモデルだなと。
杉山 そう、おっしゃる通りですね。ニッチの方がいいですね。特にニッチですとね、競争相手いないんですよ。他社がいないってことは、価格の決定権はこっちにあるんですよね。他社で作ってないってことは、値段がいくらでもつけられるもんですからね。それは非常に強いですね。