目の前の声に応えて生まれたニッチ製品(後編)
- インタビュー対象製品「高周波木材水分計」
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タッチ式ハンディー水分計。建築や家具に使われる木材の水分量を計測するための機器。もともと木材の乾燥度は職人の勘で行われていたが、数値化に成功した唯一無二の製品。高精度で使いやすく、測定対象物に軽く押しあてるだけで簡単に測定。電極に高さがあるため、荒れている面や反りのある木材でも測定が可能。
- 会社名
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マイクロメジャー株式会社
- 設立
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1998年(平成10年)7月
- 住所
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静岡県島田市金谷東2-3482-413
- 業務内容
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水分含有物、木材、合板、繊維、化成品、食品などのマイクロ波、高周波水分計の製造、販売
FFT解析の強度区分用グレーディングマシンの製造、販売
代表 杉山 晃広 様
2人のエンジニアが開発する木材専用の水分計は、業界内で高いシェア率を誇る。正確さとハンディさが特徴の「HS-300」は、今までの製品から得られたお客様の声を反映し、改良を加えた最新機種であり、痒い所に手が届くニッチな製品として多く専門業者の方々に喜ばれている。
前編に引き続き、お話を伺うのはマイクロメジャー株式会社代表の 杉山 晃広 様です。
杉山様とは、オリジナル製品の「高周波木材水分計」に関する特許出願をきっかけに、お仕事をご一緒しました。
後編では、工業製品制作の開発工程、開発費の調達方法など詳しくお伺いしました。唯一無二の製品であるが故のメリットをうまく活用されており、技術だけではない確かな経営力が随所に見られます。中小企業の一番取るべき戦略はニッチ戦略だと言われる昨今、まさに体現されている素晴らしいビジネスモデルですので、ぜひご一読ください。
試作段階から生産まで
竹井 最終的に量産をする前に、そういった事前のお客さんからのご意見を収集するってことはやってたりするんですか?
杉山 当然やりますよ。必ずお客さんに見せます。お客さんは絶対ね、うちらが私が考えたことと違うことを言うんですよ。お客目線とは恐ろしいもので。その1人目の意見は基本的に全部聞きます。で、全部直す。そうするとやっぱお客さんって大体似たり寄ったりなので、それでかなり良くなりますね。
竹井 どのタイミングでお見せするんですか?言葉だけでこんな感じで作ろうと思う、とか、実際に作ってみてお見せするのかとか?
杉山 両方やりますね。
竹井 そうですよね。言葉で伝えて、そんなんいらないよってなったら試作品作るまでもないですしね。
杉山 おっしゃる通りなんですよ。お客さんの考えてるアイデアは、こっちの考えているアイデアと全く違うんでね。当然聞きますし、作ってからも聞きます。
竹井 製品の量産は、御社内で作られているんですか?それとも外部に製作を委託しているんですか?
杉山 ほとんど自社で作っていますね。
竹井 例えばたまに発生する外注は、特定の提携先がありますか?都度最適な方を探されていますか?
杉山 両方ですね。ものによって、いつものところもあるし、できない場合には他で探したり。臨機応変にやっています。
竹井 どういった方法で探されることが多いですか?
杉山 やはりインターネットで、近場から探しています。
竹井 特殊なところってネットだとヒットしないイメージなんですけど、そんなことないですか?
杉山 意外と見つかりますね。で、あまりにも特殊なものも作れないもんですからね。自分で作るっていうことが多いです。
量産に向けての最終ジャッジ
竹井 これだったら売れるぞっていうところの最終ジャッジっていって、どのように行っているんですか?
杉山 これはですね、お客さんに聞いていますね。「買いたいですか」とストレートに。
竹井 どういうふうな感覚で金額設定されていますか?
杉山 そうですね、それが非常に難しい。金額は、開発と同じぐらい難しいんですけどね。こういうハンディみたいな、持てるものでしたら比較的安価に出してお客さんが買いたいなっていうお値段で出していますね。で、弊社にしかないような1点ものについては、値段はかなり上げていますね。それでも必要な方は買いますんでね。
竹井 そうですよね。買わないと進まないですもんね。そういったお客さんからのカスタマイズに応じて最適なものをお出しするっていうビジネスもされているってことですね。その辺の本当に値決めってもう経験と勘と、ノウハウが詰まっていますね。
杉山 そうですね。
製品の展開方法
竹井 横展開っていうところではどういうふうな広め方をされているんですか?
杉山 そこは商社を使います。商社に声をかけると、彼らは売る専門なので、日本全国に売ってくれるんですよね。それと同時に、実はアマゾンとか、自社での直売もやっています。
竹井 BtoB商品でアマゾンとか、ECサイトってあんまりイメージがありませんでした。
杉山 おっしゃる通りなんすよ。なのでやったんですよ。うちが初めてだったんで。割といい成果が出ています。結構売れていますよ。私も意外だったんですけどね。商社の方はやっぱり嫌がるんですよ。アマゾンでは絶対売らないでくれって言ってたんですけど。それを無視して売ったんですけどね。売れているのは半々ぐらいですね。商社経由とアマゾン経由と。
竹井 そうですか、半々ぐらいまでアマゾンで売れてるっていうのはすごく意外です。
杉山 本当、意外なんですよ。アマゾンの履歴を見ると意外と個人の方も買ってるんですよ。
竹井 アマゾン経由でお客様のお声をアンケートいただくとかっていうことは?
杉山 それは残念ながらないですね。やはり商社経由の声が入ってくるもんですから。お客さんからの質問がたくさん来ますんで。アマゾン経由の方からも、使い方とか問い合わせがあれば電話で全部対応していますので。その時に使いづらい点はありますかなどを聞いて、やり取りはしています。
補助金の活用
竹井 国の補助金とは、クラウドファンディングなど、返済不要な資金調達って何か活用されていますか?
杉山 昔はよく助成金など使っていましたが、最近はお客さん側から言ってきてくれるんですよ。
竹井 開発費、材料費出すからつくってくれとか?
杉山 そうですね。
竹井 そうなると自社製品で展開させることは難しいですよね?
杉山 そうなんですよ。人によるので難しいところなんですが。ただ外に出してはいけない場合も、ノウハウは残る、という風に考えています。
補助金は常にもらっていますよ。創業当初は県の補助金とかよく利用していました。
竹井 申請書とかって結構面倒じゃないですか。書類を作るところも社内でやられているんですか?
杉山 私も面倒と思っていたんですが、実際はそうでもないんですよ。結構どの補助金も似たり寄ったりなので、一回やってしまうと同じような仕組みでもらえたりします。最初は開発の補助金をもらって、終わったら生産販売の補助金ももらうとか。
あとは国の補助金だと、一度受けられると延長期間3年などもあるののでそれほど大変ではなかったです。
竹井 今でいうと、ものづくり補助金とかが出ていますよね。
杉山 当然それもやりました。
竹井 特許出願をしていると通りやすいとかありますか?
杉山 それはありますね。特許、必ず見ますよ。特許との相性はいいですね。補助金の審査員は、その技術に新規性があるのかどうか、必ず見ますので。私もびっくりしましたけど、専門家の方がしっかりと審査されていますね。
あと必須なのは大学との繋がりですね。〇〇大学の教授と共同で開発しているとか。新規性があるということは、大学の先生方も求めているものですから。産官学で共同でやっているというとかなり補助金が通りやすいです。
竹井 ちなみに御社は大学とのつながりも豊富にあるんですか?
杉山 ありますね。意図してはいないんですけどね。大学側から新しいものを求めてくるんですよ。こういうことできますか?こういうのつくれますか?と問い合わせがあったり。県の試験場とも毎週のようにやり取りしています。 やっていることが特殊なものですから、他で作ってくれるところがないんでしょうね。先生方も研究、論文のネタが欲しいので、その要望に応えていると、いつかお返しが必ず来ますので。
竹井 それでお互い良いことがあれば、いいですよね。技術を生かしたニッチなところでやっているからこそ、そういったお声がかかると。
杉山 そうですね。他にはいないんでね。
竹井 分析なども自社内でやられているんですか?
杉山 そうですね。ほぼ自社内でやっています。試験装置も全部持っています。
竹井 そういう装置を買うのも補助金で賄ったりされていますか?
杉山 そうですね。
知的財産の活用
竹井 積極的に知的財産権を取得されていますが、目的は何でしょうか?
杉山 やはり助成金を取りやすくするってことはありますね。
竹井 そもそもニッチ過ぎて誰も参入してこないっていうところで、参入障壁をある程度稼げているから、そこっていうよりかはどちらかというと次の助成金を取りやすくするためみたいなところがあるんですか?
杉山 そうですね。
竹井 特許取得までいかなくても、特許出願済み製品といえば、そのお客様へのアピールというか、新しい製品なんだねとか、いい技術使っていることのアピールはされてたりするんですか?
杉山 当然やっています。このおっしゃる通り、この商品についてはカタログにそうやって書いてあるもんですから。申請済みということで出してますんで。お客さんのアピールになっています。
今後の目標
竹井 なんとなくの妄想でも、こういう未来が繰り広げられたらすごく嬉しいなってイメージを持たれていたりしますか?
杉山 ありますよ。今、測定できる範囲というのは10mmぐらいのものとか、ベニヤだと3mmぐらいなんですね。世の中にはもっともっと薄いものがたくさん存在しているので、そういったものまで広げていくのが目標になっていますね。紙とか、フィルムとか。こういったものもマイクロ波で測れていけばいければなと思っています。
竹井 そういった現状測れないものを測れるようにするっていうことは、それによってまた新しい製品を生み出したり、新しい快適な作業、効率性が増したりとかっていうところで、世の中を変えることができそうですよね。
杉山 そうですね。